どうも、パン職人Kenです。
私は家庭でパン作りをする際に「オーバーナイト法」という製法を頻繁に使います。
オーバーナイト法でパンを作ると、生地の仕込みさえ前日に済ませてしまえばあとは翌日自由な時間に(捏ね上げてから12時間~20時間という範囲の中ではありますが)作業を再開できるので時間を有効に使うことが出来ます。
また、パン生地は冷蔵庫で寝かせている間にもグルテンがつながるので、捏ね具合が甘くてもしっかりと膨らんでくれるというメリットもあります。
そんなオーバーナイト法ですが、あることに気を遣って作業を進めてやらないとうまく発酵しなくなってしまう可能性があります。
先ほど紹介した記事でも軽く触れていることではありますが、今回はしっかりと説明をしていきますね!
目次
冷蔵庫に入れたパン生地に必須な「温度管理」
パン生地を捏ねてから焼き上げまで工程を止めることなく進める場合(=ストレート法)は、基本的にはパン生地を冷蔵庫に入れることはありません。
ですが、
- パン生地を一晩寝かせる「オーバーナイト法」でパンを作る場合
- パン生地の捏ね上げ温度が高すぎた場合
- 諸事情により工程を遅らせたい場合
こういった時にはパン生地を冷蔵庫に入れることがあります。
イースト菌の発酵は温度が低くなると鈍くなるため、それを利用して冷蔵庫で一晩生地を寝かせたり(=オーバーナイト法)、生地温度が高すぎて発酵過多になるのを抑えるために冷蔵庫に入れたり、諸事情(急な来客があったり、子供をお迎えに行かないといけなくなったり等)によりパン作りを一旦中断しなければいけない場合は冷蔵庫を上手く活用することで上手くパン作りを楽しむことが出来ます。
冷蔵庫に入れるということは当然生地は冷えます。温度を下げるために冷蔵庫に入れるので当たり前なんですが、一度冷やした生地を使って作業を再開する時は温度管理に気を遣う必要があります。
これを怠ると上手にパンを焼き上げることが出来なくなってしまうので注意しましょう。
冷蔵庫に入れたパン生地の温度に気を遣う理由
一度冷やしたパン生地の温度に気を遣う最大の理由は、生地温度と発酵が密接に関係しているからです。
パン作りに使う発酵種(イースト菌や天然酵母など)の主な役割はパン生地を膨らませることです。同じく生地を膨らませる働きのある材料にベーキングパウダーや重曹などの膨張剤がありますが、発酵種と膨張剤の決定的な違いは「発酵種は生き物である」という点です。
私たちは冬場寒くなると体の動きが鈍くなったり風邪をひいたりしますよね。反対に夏場暑くなると夏バテしたり熱中症になったりします。
発酵種は私たちと同じ生き物なので、これと同じようなことが起こります。つまり温度が低くても高くても上手く働いてくれないんですね。
冷蔵庫から出したてのパン生地は冷えていますから、発酵種の働きが鈍くなっています。
冷えた生地を使って無理矢理作業を進めることはできるにはできますが、発酵が鈍いので最終発酵に余計に時間がかかったり、パンの表面と中心で発酵具合に大きな差が出来てしまったり、長時間発酵させることで生地がダレてボリュームが出なくなったりします。
こういった事を避けるために、冷蔵庫に入れたパン生地の温度には気を遣う必要があるんです。
具体的には生地の中心温度が15℃以下では作業を進めてはいけません。作業を始めたい時間を見越して事前に生地を冷蔵庫から出しておくか、生地を発酵室に入れて温度を上げてから次の作業を行うようにしましょう。
あえてパン生地が冷えた状態で作業をすることも…
基本的にはパン生地が冷えた状態で作業を進めるのはNGなのですが、実はあえて生地が冷えた状態で作業を進める場合があります。
それは、
- クロワッサンやデニッシュなど油脂を大量に折り込んだパン
- あえてボリュームを出さずに硬く焼きたいパン
この2つの場合です。
クロワッサンやデニッシュは生地が冷えないと作業出来ない
クロワッサンやデニッシュは他のパンと異なり、パン生地に油脂を「折り込む」という作業を行います。
板状になった油脂を伸ばした生地で包み込み、薄く伸ばして折りたたみます。これを2~3回繰り返して行うことでクロワッサンやデニッシュは層状になり、パリパリサクサクの食感になります。
油脂を包み込んだ生地を薄く伸ばす際に油脂と生地がしっかりと冷えている必要があります。なぜなら冷えていないと伸ばす作業の際に油脂が生地に練り込まれてしまい、層状になってくれないからです。
実際には1時間半~2時間程かけて生地をしっかりと冷やし、折りたたんだら再び1時間半~2時間程かけて生地をしっかりと冷やすという作業を行っています。
ただしこれは折り込む作業の際の話で、発酵を行う際にはしっかりと生地温度を上げてから発酵室に入れます。
冷えているとうまく発酵しないのはクロワッサンやデニッシュでも同じですからね。
あえてボリュームを出さずに硬く焼くために冷えた状態で作業を進めることも…
オーバーナイト法で作るフランスパンの場合、あえて生地が冷えた状態で作業を進めることがあります。
生地が冷えた状態で作業を進めるとパンのボリュームが出づらくなり、焼き時間も長くなるのでパンの皮の部分(=クラスト)が厚く硬くなります。
日本では硬いパンよりも柔らかくふわふわなパンが好まれるのであえてこのようなパンを焼くことはあまりないと思いますが、フランスではフランスパンは中身(=クラム)よりもクラストを楽しむようで、柔らかいパンよりも硬いパンの方が好まれるそうです。
そういった事情を踏まえて、あえてクラストの硬いパンを焼くために冷えた生地でフランスパンを焼くというレシピもあるそうです。
冷蔵庫に入れたパン生地を扱う場合はしっかりと温度管理をしよう
ここまで説明してきたように、冷蔵庫で冷やしたパン生地を扱う際には温度管理が重要になってきます。
具体的には生地の中心温度が15℃以下では次の作業を進めてはいけません。作業したい時間に温度が上がっている様に事前に生地を冷蔵庫から出しておいたり、温かいところ(発酵室など)で温度が上がるのを待つ必要があります。
温度管理に気を遣えば冷蔵庫は便利なパン作りの味方になってくれますから、ぜひこのことに気を付けてパン作りを楽しんで下さいね!